令和5年2023年10月16日
令和6年診療報酬改定に関する声明(2)
一般社団法人 日本精神科救急学会 理事長 杉山直也
令和6年度診療報酬改定に関する声明(1:2023年5月22日)を見る
精神科救急・急性期入院料における、一定割合以上の非自発入院を求める現行要件は、精神科医療が今後向かうべき方向性に逆行するものとして廃止を求めます。高規格病棟の必要性根拠は対象の状態像や医療目的等によって示すことが妥当であり、精神科医療体制加算の算定対象は「単なる認知症を除く」と変更すること、精神科医師配置加算においてクロザピンの治療患者数要件を見直すことを求めます。
理由
1.    令和6年施行の改定精神保健福祉法では、障害者の権利に関する委員会による総括所見を受け、医療保護入院を限りなく限定的とする変更が行われる中、本要件の存続は精神医療が今後向かうべき方向性に逆行するものであり、政策理念の矛盾をはらむ。地域精神科医療における普遍原則は、人権擁護を基調としており、一定割合の非自発入院を要件とするケアシステムは許容されない。
2.    ケア対象に一定の重症であることを求める目的で入院形態を代用する考えは時代遅れであり、重症度はより本質的な観点によってなされるべきである。精神疾患により同意が成立しない状況はある程度の重症性を反映するものの、一側面に過ぎず、様々な状況が存在する中、現行要件は当事者の権利制限幅を増大しかねない構造を有している。
3.    診療報酬制度において重症度を測定する意義は、投じる医療資源量(人的含む)の根拠としての有用性であり、科学的検証に基づいた指標を用いることが合理的である。精神科救急・急性期入院料を算定する全国の病院を対象とした調査によれば、高規格病棟すなわち集中的な医療資源の投入が必要な対象であるかどうかを決定する因子として、疾患カテゴリーよりも状態像や医療目的等が重要であることが示されており、こうした根拠に基づいた制度設計が妥当と考えられる。
4.    同研究の成果により、精神科医師配置加算の算定対象として「認知症を除く」ことについての合理性が乏しかったことから、当学会が過去に提言した通り、「単なる認知症を除く」と変更することが妥当と考えられる。
5.    治療抵抗性統合失調症に対するクロザピン治療は、邦人例を対象とした当学会による大規模調査研究の結果および内外の科学的根拠をふまえた当学会のガイドラインによれば、第3選択薬に位置付けられる(治療アルゴリズム)。クロザピン治療の対象者、さらに諸条件を満たして治療開始となる患者は限られており、その効果は慢性期治療での期待が主であることから、病棟種別名である「救急・急性期」の医療とは何ら関連せず、医師配置加算において治療患者数を当該病棟に課すことは要件として不適当、継続することは非現実的である。また、当該病棟以外に課せられた医師配置加算には、クロザピン治療患者数を問わない設定があることは制度としての一貫性を欠く。これらのことから、本要件は少なくとも近い将来に見直されるべきである。
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