令和5年5月22日
令和6年度診療報酬改定に関する声明
「精神科救急急性期医療入院料の精神科救急医療体制加算において,
認知症を対象外とすることに強く反対し,見直しを求めます。」
一般社団法人 日本精神科救急学会 理事長 杉山直也  公益社団法人 日本老年精神医学会 理事長 池田学
日本老年精神医学会と日本精神科救急学会の2学会は共同で,令和6年度診療報酬改定における見直しを求める声明を発する。
令和6年度診療報酬改定に関する声明(2:2023年10月23日)を見る
Ⅰ.はじめに
令和4年度診療報酬改定にて,従来の「精神科救急入院料」は,「(1)精神科救急急性期医療入院料〈手厚い救急急性期医療体制〉」,「(2)精神科救急医療体制加算〈緊急の患者に対応する体制〉」,「(3)精神科急性期医師配置加算」の3つを積み上げる評価体系に見直された。また,精神科救急医療に係る入院の算定対象として,「(1)精神科救急急性期医療入院料」では,「症状性を含む器質性精神障害(精神症状を有する状態に限り,単なる認知症の症状を除く。)」と示された一方,「(2)精神科救急医療体制加算」では,「認知症を除く症状性を含む器質性精神障害(精神症状を有する状態に限る)」と新たな限定要件が加わり,「令和6年3月31日までの間は,精神症状を有する状態に限り,認知症を含むものとする。」と経過措置がとられている。したがって,令和6年4月以降,「(1)精神科救急急性期医療入院料」を算定する病棟において,「認知症」を主病名とする患者を入院させた場合,「(2)精神科救急医療体制加算」の対象外となるため,入院診療報酬が14.3~19.1%削減(加算や入院期間で変動)とされている。

Ⅱ. 超高齢社会における精神科救急医療による危機介入の重要性
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」がめざす重層的な連携による支援体制において,地域精神科医療の提供体制にて,「危機的な状況に陥った場合の対応を充実する」と明示されている。超高齢社会において,認知症に関する危機介入は重要な課題となっている。
認知症高齢者等にやさしい地域づくりの推進をめざす「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」において,認知症の容態に応じて,「急性増悪時に適時・適切な医療を提供する体制」が重視されており,その方針は「認知症施策推進大綱」に引き継がれている。地域共生社会で暮らす認知症の人は,予防や医療・ケア・介護サービスの支援体制(平時の対応)をいかに充実させても,しばしば認知症の行動・心理症状(BPSD)の重症化やせん妄をきたし,危機介入を要するこ
とがある。このような危機介入体制において,地域包括支援センターや「認知症初期集中支援チーム」と連携しつつ,大半の地域で「認知症疾患医療センター」を併設ないし連携した精神科救急医療機関が重要な役割を担っている。

Ⅲ.「(2)精神科救急医療体制加算」にて認知症を対象外とする改定の重大な誤り
「(2)精神科救急医療体制加算」は,時間外を含む24時間365日緊急対応する体制に対する診療報酬であり,認知症を対象外とする改定は,時間外に認知症の緊急受診・入院件数が少ないと誤解された結果とも懸念される。平成29年の実態調査*では,全国の精神科救急入院料(当時)を算定する54施設にて,時間外受診した509例を解析すると,F0圏(認知症やせん妄等)は,救急入院が必要と判定されたケース(n=281)のうち9.6%,入院不要と判定された(n=203)のうち4.4%を占めており,時間外の非自発入院(n=220)の10.5%であった。このように,精神科救急医療の現状において,認知症に伴う時間外の救急入院は全体の約1割を占めている。
*杉山直也,兼行浩史,藤井千代,平田豊明,野田寿恵:精神科救急及び急性期医療サービスにおける医療判断やプロセスの標準化と質の向上に関する研究.平成30年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業(精神障害分野))精神科救急および急性期医療の質向上に関する政策研究(H29-精神-一般-002)(研究代表者:杉山直也)分担研究報告書,2019
「(2)精神科救急医療体制加算」にて,認知症を対象外とする改定は,地域精神科救急医療体制にて2~3次救急に相当する役割を担うべき「(1)精神科救急急性期医療入院料」を算定する病棟において,いかに時間外の緊急対応を要する場合でも,「認知症患者は対象外である」とする誤った方向に誘導するものである。

Ⅳ.まとめ
以上のように,「(1)精神科救急急性期医療入院料」に係る「(2)精神科医療体制加算」において,認知症を対象外とする改定は,「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」,「認知症施策推進総合戦略」,「認知症施策推進大綱」の重要な施策がめざしている構想と明らかに反しており,認知症高齢者等の地域生活を支え,かつ危機介入を担っている各地域の精神科救急医療の提供体制に深刻な悪影響を及ぼしかねないため,見直しが不可欠と考えられる。

Ⅴ.見直しへの具体的な提言
1) 算定対象に対する見直し案
「(2)精神科医療体制加算」の算定対象として「認知症を除く症状性を含む器質性精神障害(精神症状を有する状態に限る)」に対して,以下の2つの見直し案を提言する。
① 「認知症を除く」を撤廃する。
② あるいは,「症状性を含む器質性精神障害(精神症状を有する状態に限り,単なる認知症の症状を除く。)」とする。(「(1)精神科救急急性期医療入院料」の算定対象と同一とする。)
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