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平成22年から24年における精神科救急学会の教育研修プログラムでの講演集です。この巻では、阪神淡路大震災から東日本大震災まで、いくつかの災害とメンタルヘルスに関する講演が収載されていますが、いずれもその人ならでは、という個性と迫力にあふれた内容となっており、研修会場現場の熱気が伝わってきます。
たとえば、渡路子先生による宮崎県での口蹄疫に関わった発表ですが、「牛の伝染病が人のメンタルヘルスに関係するの?」と疑問に思う方が多いのではないでしょうか?当時宮崎県精神保健福祉センター長として赴任したばかりであった渡先生自身も「口蹄疫ってそもそも何?」と精神保健に関係するものとの意識が薄かったと述べています。しかしながら、現地畜産農家にとって、これは重篤な喪失体験と孤立がもたらされる災厄となったのが現実でした。それに際して精神保健関係機関のなすべき事は何であったのか?多くの人が想定していない事態に相対するとき、この講演の内容はなにがしかのヒントになることでしょう。
災害に関する他の講演もいずれ劣らぬ質の高いもので、ご一読をお薦めします。精神科救急学会が立ち上げた被災地の長期支援のためのプロジェクトに関しては、鈴木先生、大塚先生の講演にて触れられています。計見先生の講演等からは、この学会が被災地支援に強くかかわる背景が阪神淡路大震災にあることが窺われるところも興味深いです。
また、身体合併症のケーススタディ3編には、いずれも救急医療のエキスパートである昭和大学の三宅康史先生によるコメント、アドバイスが寄せられており、価値を高めています。
さらに、広島での研修会における対応に苦慮したケースのレポート2編( 研修会ではもう1例のレポートがありましたが、諸事情によりテキストへの収録はされておりません )にも深く考えさせられるものがあります。
毎年参加者の方には好評をいただいている教育研修プログラムのエッセンスが詰まったテキストですので、災害メンタルヘルスあるいは精神科救急などに関係している施設(もちろん個人としても)では、図書として購入いただく価値があることでしょう。 |