第32回 日本精神科救急学会学術総会ルポ
岩手県精神保健福祉センター センター長 遠藤仁(医師)
静岡県立こころの医療センター 大塚昭宏(作業療法士)
医療法人財団光明会 明石こころのホスピタル 古林美保(看護師)
岩手県精神保健福祉センター センター長 遠藤仁

 このたび第32回日本精神科救急学会総会に参加する機会をいただきました。私自身、現在は精神保健福祉センター所属となりましたが、岩手医科大学に在籍していた時代に、大塚大会長のもと岩手県こころのケアセンターに携わらせて頂いた経緯もありました。私個人にとっても過去の活動を振り返りつつ、今後の仕事の活力につながる多くの深い学びと感銘を受けました。
 初日の「大会長講演」では、岩手医科大学神経科学講座教授である大塚大会長から、岩手県が医師不足という厳しい状況にもかかわらず、東日本大震災においては全国の多くの先生方からご支援を賜り、現在、無事に大会が開催されるまでに至った経緯が語られました。少しずつですが確実に前進している現状への感謝の意が述べられ、その熱意と情熱に深く心を打たれました。学会員の皆様のご尽力に対し、改めて敬意と感謝の念を抱きました。
 続いての「先達に聞く」セッションでは、社団医療法人法成会平和台病院の伴亨先生のお話が印象的でした。1992年、北里大学病院高次救命救急センターに堤邦彦先生が配置され、早期から「救急現場に精神科常勤医を配置する」という先駆的な取り組みが行われていたことを知り、深い感銘を受けました。また震災復興においては「これまで築き上げてきた先人たちの貴重な財産の延長に、今がある」という視点の重要性を教えて頂きました。現在の多様な問題に対し、過去の努力や成果を尊重しつつ、新しい力を加えて、問題解決へ向けて未来へと繋げていく姿勢と感じ、大いに共感いたしました。
 メインステージでの岩手県・達増拓也知事と斎藤純・石神の丘美術館館長との対談も非常に有意義でした。いわてモデルによる震災復興の取り組みが能登半島地震でも活用されたこと、久慈モデルの自殺対策が東日本大震災からコロナ禍まで継続的に効果を発揮していることなど、幅広い視点から学ぶことができました。特にこどものケアセンターの設立や三陸鉄道の復興に際し、海外からの支援を知事自らが丁寧に調整いただき、現場に届けてくださったエピソードには深い感動を覚えました。その中でも最も心に残ったのは、「岩手県感謝状贈呈式」での宮古山口病院・佐々木清志先生のお言葉です。甚大な被害を受けた山田町のご出身である先生は、受賞時のインタビューで次のように述べられました。「震災直後は何も手につかず、ただ忙しく動いていた。震災前の1週間から震災時に至るまでの、当時の記憶があまりに鮮明に残り、その記憶は永遠に消えないものだと思っていた。しかし、1年、5年、10年と、年月を重ねるにつれ、その『記憶』と『復興へ向かう現在』とが、行きつ戻りつつしながら、時が過ぎていく、そのような感覚を感じている。心の復興とは、そのような過程を経て進んでいくものかもしれない」。この言葉は深く胸に響き、支援者として決して忘れてはならない感覚であると強く感じました。震災からの復興は、物理的な再建だけでなく、人々の心の再生も伴うものであり、その道のりは決して容易ではありません。今回の学会を通じて、その現実と向き合い、私たちが果たすべき役割について改めて考えることができました。
 最後になりますが、このような貴重な学びの場を提供してくださった精神科救急学会の皆様、そして多大なるご支援をいただいたすべての方々に深く感謝申し上げます。この経験を胸に、今後も日々の業務に精進してまいりたいと存じます。改めまして、第32回日本精神科救急学会学術総会にご参加いただいた皆様に深く感謝いたしますとともに、皆様の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。



●静岡県立こころの医療センター 大塚昭宏(作業療法士)

 開催の地である岩手県にも甚大な被害をもたらした東北大震災から13年という月日が経ち、被災したこの地で第32回精神科医救急学会学術総会が開催され、参加させていただきました。
私は静岡県静岡市にある静岡県立こころの医療センターにて作業療法士として勤務しています。主にはスーパー救急病棟のリハビリテーションを担当しております。
 今回は、精神科救急の新たな知見や他の病院の他職種の取り組みを学び、当院にも有効に活用できればと思い、また作業療法のシンポジウムが開催されることもあり、参加させていただきました。
 本学会は、大塚耕太郎学会長と岩手の地域との結びつきの強さを感じる、とても地域愛の溢れる学会でした。岩手県知事の大会長セッションや大槌町長の大会長特別企画特別講演は、被災時の様々な苦悩と想いを聞くことができ、こうして盛大な学会が開催されている現在までの歩みを感じられる大変心に残るセッションでした。
 さらにレセプションでの大槌虎舞も披露いただき、舞踊の迫力もさることながら、様々な世代の方が伝統を引き継ぎ、震災により大槌町を離れてしまった方も虎舞のために、集まるコミュニティーとなっているとのお話もいただき、改めて人と人が繋がること、安定したコミュニティーがあることの力を感じさせていただきました。
 学会セッションでは多くの発表もあり、様々な救急での取り組みの報告があり、自身の臨床で活用できそうな方法や考え方を学ばせていただきました。
 そんな多くのセッションで共通して感じたことは「捉える力と伝える力の重要性」でした。
どのセッションでもアセスメントを丁寧に多職種で行っていること、それが共有されていることが前提の話でした。当然のことですが、各職種が専門性をもとにしっかりとアセスメントをする。それを共有することで、救急病棟でのチームが有機的に機能している状態であることが感じられました。
 作業療法のセッションでは作業療法士がチームで活躍することで、新たな視点や滞った状態から好転することがあり、作業療法士の視点をチームに組み込むことでの効果を評価いただく発言も聞かれていました。理事長講演の中でも作業療法による治療全体への効果や有効性などのお話もありました。精神科救急の治療において有効な手段・職種であることを評価されていることを感じ、身の引き締まる思いを感じ、今後の自分の臨床への糧になる機会となりました。
 そういった中、作業療法士がアセスメントや関わりを十分に伝えられていないためか、他職種より「いい関わりをしているようだが、具体的にはよくわからない」といった発言も聞かれました。自身の業務内での発信や情報の共有も点検する必要があると感じたのと同時に、自分の取り組みを学会等で発表していくことで、自分以外の多くの作業療法士がアセスメントの力を高め、発信する必要性を感じることに、寄与できるのではと感じました。
 企画・セッションも多く、学びの多い、非常に濃密な時間でした。ぜひ来年の学術総会にも参加したいと感じております。
最後になりますが、本学会の企画運営にご尽力いただいた多くの先生方には、このような学会を開催いただいたことに感謝申し上げます。本当にありがとうございました。



●医療法人財団光明会 明石こころのホスピタル 古林美保(看護師)

 この度、2024年10月24日25日に開催された第32回日本精神科救急学会学術総会に参加し、当院から4名で参加させていただきました。その中で昨年度発表した「児童思春期病棟における患者中心とした多職種チームによる実践~「治療ブック」の作成とその評価~」が奨励賞に選ばれたことで表彰式があり、実際に舞台に上がらせていただき大変嬉しく感謝しております。治療ブックについては、発表時点では医療職者の使用感や評価が中心の内容でしたが、患者様の使用感や行動変化などの評価にも取り組んでいき、精神科救急医療の質向上を目指していきたいと思っています。本当にありがとうございました。
 今回、岩手県での開催もあり、東日本大震災津波の発災で精神保健医療体制に大きなダメージを受けながら、精神科医療の課題となる自殺対策やコロナ禍の対応、地域ケアの推進の実際について聴講でき、復興過程での苦慮や対応について大変胸が熱くなりました。また講演中に「なもみ」の演出とおもてなしをいただき、活気ある場に参加できたことを光栄に思っております。今学会では、地域ケアの推進について考える機会となり、特に心に残った1日目のシンポジウム「精神科救急医療における包括的支援マジメントの将来像」について聴講した感想を報告したいと思います。
 精神障害に対応した地域包括ケアシステムが示された以降、診療報酬改定による新設や見直しがされる中、今年度6月の診療報酬改定が行われました。退院後療養生活される方への支援において療養生活支援加算は、医療者との関係構築やケアを継続するための仕組みとして画期的であり、まさに当院でも取り組んでいるところであります。入院される方のほとんどが包括的支援マネジメント基準に該当することで、入院中から退院後の生活を見据えたケア計画、また支援対象者のパーソナルリカバリーに着目した支援課題についてアセスメントする重要性、入院中からの顔合わせや関係づくりで安心できる地域生活に向けた連携について、「関係性をつくる→関係性を続ける→多職種連携へ」と仕組みづくりすること、退院後療養生活支援に介入するスタッフ教育や地域生活で再発防止や健康保持に支援できるよう広報活動の実際などたくさんのことを学ぶ機会となりました。さらに、他院の現状を知る中で、支援対象となるケースには、自傷を繰り返す方や頻回な電話相談のある方、地域の支援者や御家族からの対応の相談を含め、現在の精神科医療の課題、そしてニーズとなる支援対象者の自立支援や重症化防止に介入していることにも同感することとなりました。精神科救急医療では、精神症状に振り回され自我脆弱な状態で入院する方も多い中で、対人関係に敏感な精神状態で私たち医療者と初対面になることもあります。そのため、退院後に治療継続するための関係性をつくる面では、入院生活で関わる時間が多い看護師の役割を活かしながら、支援対象者のこころを癒すケアや症状との付き合い方について一緒に考える体験、多職種と連携することの調整役となって働きかけることで、支援対象者が支援者と関係性を続けられるよう、観える仕組みづくりと広報に今後は取り組んでいきたいと思いました。
 毎度、学会参加することで専門職として我が身を振り返る機会となり、新しい知識や発見を吸収することで実践する活力になっております。事務局の皆様をはじめ、ご登壇の先生方に心から感謝申し上げます。
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