第31回 日本精神科救急学会学術総会ルポ
桶狭間病院藤田こころケアセンター  坪井 宗二(看護師)
群馬県立精神医療センター  小山 麻実(医師)
山口県立こころの医療センター 岸本 陽平(精神保健福祉士)
●桶狭間病院藤田こころケアセンター 坪井宗二

 私の日常業務は、治験や臨床試験の支援を行う、CRC(Clinical Research Coordinator)ですが、職種に関わらず発表の機会を頂ける、日本精神科救急学会学術総会は、他の医療機関の方と、多様性に富んだ、様々な立場の方のお話を直接聞くことができる重要な会であると感じています。本学会への参加は3年ぶり、3回目の参加でした。ポスター発表が積極的に活用されており、時間に縛られることなく、発表内容やそのグラフや表等を閲覧することができたこと、デザインの凝ったものや写真入りのものなど、見ているだけでも楽しいポスター発表が多く、大変勉強になりました。今回私は、ブロナンセリン経皮吸収型製剤の「のり残り」についてのアンケート調査をポスター発表させて頂きました。自身のポスター発表ではとても緊張いたしましたが、座長の八田耕太郎先生と事前にお話ししたり、たくさんの方に、いろいろなご意見を伺ったりすることができたので、今後の研究の励みになりました。当院のスタッフは多くの発表を行い、準備も含め、その緊張を分かち合うことができたことは印象深い経験になりました。院長の藤田潔先生も、当院の全ての発表の応援に駆けつけてくださり、いい緊張を保ちつつ、楽しみながら当院の研究成果をお伝えすることができたと思っています。本当にありがとうございました。
 シンポジウムでは「クライシスへの予防、予見、早期介入」を聴講させて頂き、地域と一言に言っても、福祉、医療、自治体、それぞれの役割や専門性が存在し、1人の患者を取り巻く環境に、包括的にケアを行うことがいかに難しいか、「予防から精神科救急医療を考える~早期介入から地域生活に向けて~」というテーマの重さを感じました。
 名古屋に戻り、ちょうどNHKでは「エマージェンシーコール救急通報指令室episode4」が放送され、消防指令センターの方のお仕事の様子が紹介されていました。番組では過呼吸を起こしながら119番通報した方や、重いけがをされた方、いろいろな方の話をセンターの方が丁寧に聞き、緊迫した状況の中、救急車の手配、適切な処置や指示をされているところを見ました。今回の学会に参加し、改めて地域を意識することで、病院で受け取る救急車からの患者さんだけでなく、119番通報をされた方、される方まで想像できていない自分に気付くことができました。
 会場のKDDI維新ホール近くでは、90歳を超えるマスターが淹れてくれる深いコーヒーや、涙もろい居酒屋の大将が作る香ばしい瓦そば、元気な店員さんのお寿司屋さんで美味しいお魚も頂きました。改めて素敵なこの地域の人々の、精神科救急医療を支えながら、このような発表の場を与えて下さった、大会長の中川伸先生はじめ、山口大学の皆様と日本精神科救急学会の皆様、株式会社メッドの皆様に感謝するとともに、この経験を、また日々の臨床に活かして参りたいと思います。本当にありがとうございました。



●群馬県立精神医療センター 小山 麻美

 この度、2023年10月6日~10月7日に山口県で開催された、第31回精神科救急学会学術総会に参加させていただきました。
私は群馬県伊勢崎市にある群馬県立精神医療センターで2年目の専攻医として勤務しております。精神科の学会に現地参加するのは今回が初めてでした。現地では会場の熱気に圧倒され、シンポジウムや講演で全国から集まった精神科医療に携わる方々が活発に議論を交わす様子、ポスター発表、ランチョンセミナーなど、私にとっては全てが新鮮な体験でした。
 今回私は、「救急急性期病棟における高齢者の状況」というテーマでポスター発表をさせていただきました。精神科救急の現場でも高齢者の入院が増加しているにも関わらず、来年度より精神科救急加算の算定対象から認知症が除かれることを踏まえ、当院の高齢入院患者の現状から高齢患者の精神科救急病棟での治療の必要性を検討する内容でした。とても緊張しましたが、自分の発表に対してご質問、ご意見をいただけたことは嬉しく感じました。このような機会をいただいたことに心から感謝申し上げます。また、ポスター発表では私と年次が変わらない若手の先生からベテランの先生まで、多くの発表を聴けたことも勉強になりました。発表の内容は勿論のこと、個人的にはポスターの作り方や発表の仕方などに関しても学ぶことが多かったです。
 シンポジウムや教育講演では精神科救急医療の第一線で活躍されている先生方のお話を聞くことができたことは大変貴重な経験となりました。身体科や多職種との連携に関する全国各地の病院での取り組みが印象に残りました。今後高齢化の進行やクロザピンの普及などからも身体科との連携はますます重要となっていくと感じました。
 日常の業務から離れ普段は触れることのできない全国各地の先生方のお話を聞くことはとても刺激になり、社会が変化するに従い変化していくであろう精神科医療と、この中で自分が何をしていきたいのか、何が出来るのか、考え直すきっかけともなりました。
 最後になりましたが、第31回日本精神科救急学会学術総会の企画運営を担当してくださった皆様に深く感謝いたしますとともに、本学会の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。



●山口県立こころの医療センター 岸本 陽平

 第31回日本精神科救急学会学術総会は、「維新胎動の地」山口県での開催でした。大会長を山口大学大学院高次脳機能病態学中川伸教授、副会長を当院の兼行浩史院長が務めたことから私は主催者スタッフとして参加しました。主催者スタッフと言っても大会前の準備には携わっておらず、1日目はポスターセッションの座長受付、2日目は第2会場の会場係を担当し、その合間にポスターセッションと2日目のシンポジウム4「DPAT再考:災害精神科医療の方向性」に参加しました。

 ポスターセッションでは2日間で約80のポスター発表がなされました。精神科救急医療体制・措置通報のセッションでは、精神科救急情報センターが各都道府県で整備されていますが、その運用は地域差か大きく、東京都では、救急情報センターを介して入院となる場合は「家族等の同意・同伴」が義務付けられており、「家族等の同伴なし」で入院できなかったケースとその分析発表がありました。東京都同様に山口県内でも電話同意や応急入院の拡充は必要であるとともに、令和6年4月からは精神保健福祉法が改正され市区村長同意が見直されることから、夜間休日の市区町村同意の体制整備についても検討する必要があると実感しました。
 
 2日目のシンポジウム4「DPAT再考:災害精神科医療の方向性」は私自身もDPAT先遣隊として熊本地震や平成30年7月豪雨の際に被災地で活動した経験があることから、非常に印象深い内容でした。DPATは東日本大震災での課題をもとに体制整備され今年で発足10年を迎えました。災害発生時から急性期の病院支援を主な目的としたDPAT先遣隊の研修体制の整備は進んでいる一方で、都道府県で構成される都道府県(ローカル)DPATは都道府県によって体制整備に大きな差があり、山口県は登録隊数0が続いています。DPATの活動は平時の精神科医療の延長線にあり、中長期的な支援を行うにあたっては、支援の中心を担う市町保健師や保健所、精神保健福祉センターなど地域保健福祉担当機関との連携は欠かすことができません。DPATによる中長期支援は、日頃から顔の見える関係で地域の実情を理解しているローカルDPATにしか担えないものであり、山口県内のDPAT体制整備を推進していく必要があると改めて認識できました。
 
 また、今回は主催者スタッフとしての参加であったことから、聴講できたのは一部でしたが、以前お世話になった県外の方の久しぶりに再会し、また同じく主催者スタッフとして参加していた山口大学医学部附属病院精神科の医局の先生方とも交流する機会となり、日々の臨床や支援へのモチベーションにつながりました。
 最後になりましたが、第31回日本精神科救急学会学術総会にご参加いただいた皆様に深く感謝いたしますとともに、皆様の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
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