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●医療法人社団直樹会 磯ヶ谷病院 大岩 宜博
私は、2024年6月29日に千葉市の千葉県総合救急災害医療センターで開催された、教育研修会in千葉に参加させていただきました。午前中は病院見学を行い、班ごとに分かれて院内を見学させていただきました。救急医療センターと精神科医療センターの統合後も、体育館があったり精神科患者に必要なスペースがしっかり確保されていることに驚きました。また、全室個室でトイレ付き、死角は多少あるものの室内にカメラもなくプライバシーに配慮されていて、救急医療を行っていく上でのスタッフの方々の信念を感じました。
基調講演は国立精神・神経医療研究センター(前自殺対策推進センター長)の本橋豊先生による「日本の自殺の現状と、自殺対策政策について」というご講演でした。コロナウイルス感染症の流行で直接的には自殺は減るというのは恥ずかしながら初めて耳にした話で非常に驚きました。社会的不安が高まると自殺が減ることや歩行移動量が減ると自殺が減るということ、雇用環境の悪化が自殺と関係することなどdataに基づいてお話しされ理解しやすく、ただの根拠のない印象がどれだけ実際とずれているか、エビデンスあるなしではなくどのエビデンスレベルなのかを考えていかないといけないことなどわかりやすいお話でした。その辺りが今後の自殺対策にも必要で、我々も情報として知っておかないといけないと思いました。
パネルディスカッションでは千葉県総合救急災害医療センター救急診療部長・集中治療科部長の松村洋輔先生から「救急科から精神科医に期待するもの」、同センター精神科担当病院長の深見悟郎先生から同センターの救急やリエゾンの現状、埼玉医科大学医学部神経精神科・心療内科教授の松尾幸治先生から埼玉県内の救急センターや総合病院医療の現状に関してご講演がありました。中でも私個人としては松村先生のお話が強く印象に残りました。過量服薬してしまう患者さんを大量に内服薬を処方してしまうかかりつけクリニックにそのまま戻すべきなのか、パーソナリティー障害は治療介入が気分障害等と比べそこまで効果的でないからと言って診ない・診たがらないという状況で良いのか、社会に求められるものを診るのがプロフェッショナルではないのか、という痛烈なメッセージでした。実際ケースバイケースで難しい所もありこのメッセージにクリアに返答することは難しいな、と感じましたが、救命救急センターは毎年厚生労働省から評価が公表されており、精神科診療の質も同様に評価され公表されるとよいのではないかという先生のご提案は非常に興味深いものでした。私個人として診療の質を高め、他の先生方に質を疑問視されないように心がけていきたいと改めて思いました。
今回の研修で日本の自殺の現状や政策、千葉県内の自殺関連の情報、埼玉県での現状を知ることができ、自身が自殺関連の対応をしていくにあたっての情報を得ることができました。精神科医として駆け出しだった頃に比べ忙しさを理由に研修参加を怠っていたので、自身の視野が狭まりかたくなっていることに気づくことができました。今後も色々な研修会に参加してみようと思う良い機会となりました。このような機会を作ってくださった教育研修委員会事務局の皆様、千葉県総合救急災害医療センターの皆様、ご登壇者の先生方に篤く御礼を申し上げます。ありがとうございました。
●医療法人コミュノテ風と虹 のぞえ総合心療病院 白井 愛
今回、2024年6月29日に千葉県で開催された、教育研修会に参加させて頂きました。
午前中は千葉県総合救急災害医療センターの病院を見学させて頂き、午後からは「精神科救急と自殺」というテーマでの基調講演やパネルディスカッション、総合討論、終了後は情報交換会と盛り沢山の一日でした。私は福岡県久留米市にあるのぞえ総合心療病院にて、6年目の心理士として働かせて頂いております。今回初めての精神科救急学会の研修会参加でしたが、非常に刺激的で充実した時間を過ごすことができました。
午前の病院見学では、外来から始まり精神科救急病棟、ドクターヘリのエアポートまで見せて頂きました。前日はあいにくの天気でしたが、当日は晴れ間が見え、千葉の高層ビルや東京湾が一望できました。
病棟見学で驚いたのは、ナースステーションでは患者さんの情報が大きな画面で共有されており、ナースコールの回数や時間帯がデータとして可視化され、より効率よく状態を把握できる作りになっている点でした。また、病院の考え方として、治療者が患者さんの代理行為をせず、患者さんにもそのご家族にも責任を持って治療に臨んでいただく姿勢は、当院の医療方針とも通じる点であると感じました。さらに、病院自体が様々な災害を想定した作りとなっており、災害時においても病院の機能を維持するための配備が所々になされていた点も印象的でした。
午後の研修会でも数多くのことを学ばせて頂きました。本橋先生による基調講演ではエビデンスのレベルも含めて精査することの重要性を学びました。
そしてパネルディスカッション、総合討論では多岐に渡ったテーマでディスカッションがなされていました。非常に印象的であったのは、人格障害、発達障害圏などの治療目的や目標を立て辛い患者に対する治療者の葛藤でした。先生方より様々な意見が挙がっており、前医の診断を改めてアセスメントし直す必要性が共有されました。また、人格障害圏の患者に対する治療者側の陰性感情が反映されている可能性もあること、そして治療として、改めて患者の成育歴・傷つきのエピソードに触れていく、ナラティブ的なアプローチの大切さも学ぶことができました。
終了後の情報交換会ではおいしい料理に舌鼓を打ちつつ、先生方と楽しい時間を過ごすことできました。
今回の研修会は「自殺」という非常に重いテーマではありましたが、重症な患者を通し精神科と身体科が結びつき、共同していく意義を学びました。最後になりましたが、このような貴重な学びの場を与えて下さいました、千葉県総合救急災害医療センターの皆様および事務局の皆様、そして多くの知識や気付きを与えて下さいました登壇者の先生方に心から感謝申し上げます。
●愛知県精神医療センター 鹿子島 大貴
梅雨の合間の晴れ間、6月29日に千葉県総合救急災害医療センター3階会議室にて、2024年度教育研修会in千葉が開催されました。テーマは「精神科救急と自殺」です。私自身としては、精神科救急の原点である千葉県精神科医療センターが千葉県総合救急災害医療センターへと統合されたことは大変興味深く、一人の精神科医療従事者として強く関心を持っておりました。
拙い文章で恐縮ですが、私が研修を受けた感想について報告したいと思います。そして、この度参加ルポの執筆依頼を頂き感謝申し上げます。
第一部は病院見学です。驚くことが沢山ありました。救急外来の入口は救急科と精神科で独立した動線が確保されています。一方施設の中では検査含めた連携がスムーズに行えるよう考慮されていました。今まで見たことのない様なサイズの大きなエレベーターがあります。お話を伺っていると、救急科と精神科の職員間の連携も全くハードルが無いことも伝わってきます。これほど患者さんの急性期を全体でみる体制が整っていて、精神科と救急科が密接に連携できる病院があることが驚きでした。その中でも、精神科患者さんへの配慮も欠かされていません。例えば保護室の監視カメラも、常時トイレも含めた監視をされていることは本当に患者さんのためになっているのかを考慮された上で、基本は使用せず、必要時に使うよう決められていました。保護室でも冷蔵庫や金庫のついた床頭台があり、鏡がある洗面台がついていることなど、患者さんのプライバシーや自律性を大切にしているのだなということがよく分かりました。保護室内へのスマホ持ち込みも禁止しない前提で、患者さんに応じてリスクを考慮して入れる物品を個別に考える姿勢は、元来「ルール」の様な形で患者さんに行動制限を敷いてきた精神科医療の風潮とは明らかに違いました。もし自分が患者さんだったら、ここに入院したいな…と思ってみていました。
次に、基調講演「日本の自殺の現状と、自殺対策政策」では、EBMに基づいた自殺対策について学びました。臨床ではそこまで意識する視点がなく、大変勉強になりました。例えば普段よく見る自殺対策のチラシやポスターにも「相談が大切」と記載されているのをよく見かけることがあり、私もそのように思ってました。しかし継続的フォローアップなきハイリスク者の相談活動の自殺予防の有効性について科学的エビデンスは認められていないことを知って、驚いたと同時になるほどと、目から鱗が落ちました。自分の日頃の臨床でも、判断する際にはエビデンスの質を加味する視点を持っていきたいと強く思いました。
そしてパネルディスカッション「救命救急における自殺の問題」です。精神科急性期病棟と救急科があるそれぞれのお立場から、施設内・施設間でのリエゾン・チームの派遣や連携が大変スムーズに行われていることを実感しました。ハード面が整っていることは前提ですが、その中で大切なことは、やはり困ったときには相談しやすい関係であること、顔の見える関係は重要であることが、学びになりました。そして、治療効果が期待できる疾患をみるのがプロフェッショナルなのか?という問題提起がありました。難しい患者さんであっても、本人が辛い状況にあることは変わりなく、なんとかして良くなる方法を患者さんや支援者と考えながら探していくことが私たちの役割だと思うので。今後も何のためのプロフェッショナルかを考えながら全力で取り組んで行きたいです。この度は大変勉強になりました。研修会の企画・運営に携わられた皆様に感謝申し上げます。 |
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